吉村廉「看護婦の日記」
京橋にて。「よみがえる日本映画vol.4 大映篇-映画保存のための特別事業費による」特集。47年、大映東京。
太宰治の明朗青春小説「パンドラの匣」から、明朗青春度を若干削除、淡彩画のようなさわやかさを加味、戦後このあとの吉村廉からは想像出来ないような、好印象な小品佳作。
かつて、サナトリウム文学というか、療養所文化というか、そういうものに対する、憧れみたいなものがありました。青春のサナトリウム≒モラトリアム。
マイナスからの出発。原作では、8・15昭和天皇のラジオ放送で、はっきり目覚め、結核療養のため、山奥の健康道場に住み着く、敗戦と病弱からの、青年のマイナスからの出発。それを天性の明るさで描く太宰、それをこんなさわやかにに映画化して、まあ、原作ファンとしては、多少不満もあるけれど、満足満足。これと比べれば、2009年版リメイクは、それなりにいい映画なのではあるが、欠点も目立ち、ちと分が悪いぞ。
原作の設定は、
ひばり 20歳男子。結核としては軽いほう、ちゃんと養生すれば半年後退院予定。
マア坊 18歳の看護婦。くるくる変わる気分屋。ひばりは、いいように振り回される。
竹さん 20台半ばの看護婦。美人で気立てのよい働きもの。実はひばりに・・・・
●ひばりの同室患者
越後獅子 なにやら大物らしい、年配患者
つくし まじめな妻子持ち・・・・しかし後にマア坊にラヴレター
かっぽれ 美男子にして激情家のアンちゃん 何かと感激、興奮、泣いたり怒ったり
固パン 助手たちに人気の学生
●助手・他
くじゃく やたらと厚化粧ゆえこのあだ名の助手
キントト 他に助手として、うるめ、ハイチャイ、となかい、こおろぎ、カクラン、など
場 長 この健康道場を独自の治療法で運営する院長
ひばり友 ひばりの文通相手。道場にひばりを見舞う好青年
ひばり父
ひばり母
越後~娘 越後獅子を頻繁に見舞いに来る
隣室患者 ひばりたちと、対抗する、にぎやかし集団
本作は、
●ひばりの同室患者
ひばり 小林桂樹 ○さわやかだが、ちょっと、この役には、大人臭いな
越後獅子 徳川夢声 ○ちょと軽いけど、ベスト
つくし
かっぽれ 杉狂児 ◎絶品代表作にして、助演男優賞クラス
固パン ○なかなか
●助手・他
マア坊 関千恵子 ○後年の彼女はキツネ顔、それとまるきり違う丸顔のぶりっ子、別人みたい
竹さん 折原啓子 ◎原作のぶっきらぼうとは違う、愛されタイプが、愛らしい
くじゃく ○
場 長 見明凡太郎 ○ぴったり
ひばり友 (登場せず)
ひばり父 (登場せず)
ひばり母 平井岐代子 ○水準。登場しない、ひばり友の役割も果たす
越後~娘 (登場せず)
隣室患者 ○無名役者たちだが、なかなかクセがあり、いい
小林桂樹は、若いときでも大人の気配が濃厚に漂い、それは原作のひばりには合わないし、だいいち、ひばりなんていうあだ名が徹底的に、似合わない。ではあるが、さわやかさだけはキープ。そもそも、若さが似合わない大映に、ひばりを演じうるスタア俳優は、のちの川口浩のデヴューを、またなければならない。
後年キツネ顔になってからは、ヒロインのいじめ役なんかにその位置を見出した関千恵子も、ぶりっ子は、徹底的に似合わず。ゆえに、ぴくちゃあ氏にも、演技がヘタといわれてしまうが、これはこれで、異常な?までの思春期ぶとりが、なんだか、微笑ましい?
終始、ニコニコ微笑む折原啓子が、癒し度最高の看護婦を具現。この折原啓子なら、見送られても、悔いなし(笑)。それは、原作の竹さんとは、ちょと、ちがうんだけど、その笑顔、まあ絶品だあね。
ときに繊細な演出もあり、太宰ファンとしても、満足。素晴らしい、さわやか高原の実写(どこでのロケ、信州か)の圧倒的素晴らしさ、そこに佇む小林と関千恵子、ああ、素朴、カンペキ。
固パンの姉・奈良光枝が、なぜか登場し、原作にない歌唱シーンすら、許せてしまう(笑)。
絶対の映画ではないが、これもありかな、と。それにしても、小林桂樹、若い頃から、けっこう主役張ってるなあ。究極の愛されキャラ。
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by mukashinoeiga | 2012-04-23 23:14 | 旧作日本映画感想文 | Comments(0)