人気ブログランキング | 話題のタグを見る

鈴木英夫「大番頭小番頭」池部良雪村いづみ藤原釜足浪花千栄子若山セツ子伊藤雄之助

 神保町にて。「ひばり・チエミ・いづみ 春爛漫!おてんば娘祭り」特集。55年、東宝。
 既見と承知の上の再見。青柳信雄「初恋チャッチャ娘」を見に神保町まで行くのだが、一本だけでは、ちとさびしい(?)、あるいは、もったいない(?)という、自分でも、ヨクワカラナイ、奇妙な心性による。
鈴木英夫「大番頭小番頭」池部良雪村いづみ藤原釜足浪花千栄子若山セツ子伊藤雄之助_e0178641_1254436.png 人によっては、いやおそらく大部分の人にとっては、すでに見ている映画を、お金と時間をかけて、もう一度見る、というほうが、もったいないのかも知れぬ。
 本当は新文芸坐で、名作と伝えられる中村登「紀ノ川」とはしごしたかったのだが、「紀ノ川」を見ると、「初恋チャッチャ娘」に、間に合わない。世間公認の名作より、アイドル映画のプログラム・ピクチャアを選んじまう心性こそ、本当はもったいないのかもしれない。
 あだしごとはさておき。

 落語と同じで、いい話は何度、見ても、よい。鈴木英夫の抜群の安定感。4/13(金)までの上映。
 池部良の大学生が、当時の大学生は一応エリートの頃だから、一流企業に就職するところ、不況ゆえ、ちいさな老舗の下駄卸の個人商店に、就職する。といっても、その就職試験には、二十人ほどの詰襟の大学生が応募している。
 一応は近代西洋の知識にあふれている大学生が、老舗の下駄屋に。與那覇潤「中国化する日本/日中「文明の衝突」一千年史」風に言えば、中国化・西洋化された教育を施された、池部良が、江戸時代化の権化たる、老舗個人商店に乗り込む。
 そこには、権化の権化たる、大番頭・藤原釜足がいて、奉公して40年、先々代からのご主人様に、ひたすら仕える。しかし若主人・伊藤雄之助は、下駄屋なんていう古臭い商売がいやでいやで、<先端的でモダンな、かっこいい商売>に転業したいと、願っている。ここにも、<中国化>対<再江戸時代化>の戦いがあるのだなあ。
 伊藤雄之助は、言う。「出来れば、パチンコ、ダンスホール、イカした映画館なんかを、やりたい」。
 池部は、眉をひそめて、「ご主人、あなたがやりたい商売は、よりによって、危ない、ばくちみたいな、水商売ばかりです」。浮薄な<中国化>よりも、根っからの地道な<再江戸時代化>人なのだ、池部は。さすが、後年の東映仁侠映画の池部良は、この頃から準備されていたのだなあ。

 しかし、個人商店のつらさは、仕事をするだけでは済まない。軽佻浮薄な伊藤雄之助社長の素行を、監督するよう、大番頭からも、伊藤の兄嫁・若山セツ子からも、頼まれる。かくて、堅物新入社員が、ノーテンキ社長の素行を監督するという、ある意味のちの東宝社長シリーズにも、繋がる、れっきとしたサラリーマンもの系譜。
 そして若山セツ子(若くして、未亡人という、そそる(笑)役。しかし今井正「青い山脈」で超絶アイドルとしてデヴューしたのに、すぐに地味な人妻役に移行したのは、谷口千吉と結婚しちゃった呪い?か、あるいは、ほうれい線もくっきりな、ヤセ顔薄幸顔ゆえか)の妹として、九州から上京するのが、雪村いづみ。

 池部良に英語を家庭教師されているうちに、退屈で、突如歌い踊る雪村いづみ。ナイス。
 女子高生なりに、積極的に池部にモーションをかける(死語)。いづみに迫られても、唄いかけられても、ダンスにつき合わされても、顔をしかめ、嫌がるそぶり明らかな、池部。
 そうなのだ、この映画は、当時のイケメン・池部を主演にして、まったく恋愛的要素が、かけらも、ない。いづみのモーションを、池部はただひたすら煙たがり、兄嫁の未亡人・若山セツ子は、池部に関心などなく、亡夫の弟・だらしない伊藤をほのかに恋している。
 イケメン池部に、恋愛マターを、ふらない。これは、クールな鈴木英夫演出ならでは、ではないか。
 クレイジーな岩間鶴夫(さらに輪をかけてクレイジーな鈴木清順の師匠)が、美空ひばりが歌い踊るのを、居合わせた全員が、ドンヨリ下向いてうつむいて、陰惨にそのひばりの歌を聞く、という、ありえない演出をしたが、それに匹敵?する、明朗いづみの歌とダンスを、心底嫌っているようなシブ面の、池部。
 クールすぎるぜ鈴木英夫。抜群にすばらしい雪村いづみの歌唱・演技なのに(笑)。

 <再江戸時代化>の権化のような大番頭・藤原釜足も、すばらしいが、それに輪をかけて、さらにさらにさらにさらに素晴らしいのが、浪花千栄子! 若き日の釜足と、開運橋で別れた女、その数十年ぶりの再開。釜足の母・三好栄子に言いくるめられて、恋仲だった釜足と、無理に分かれたという。
 この浪花千栄子の、年増の水商売の女らしい、その、畳の部屋での、着物姿の、所作、顔の表情の、なんと、美しいことか。畳の上に繰り広げられる、つつましやかで流れるような身の動き、その流れるような動作、しぐさのいちいちが、これは、完璧な芸術で。重要無形文化財クラス。
圧倒されました。恐れ入りました。

 なお、蛇足。神保町シアターにおいてある配役表(およびそれの元ネタと思しいネットの、たとえばgoo映画でも)恩田清ニ郎が教授役でクレジットされているが、おそらく、カットされている模様。プリントは、キズ・かすかにコマ飛びはあるものの、それなりに良好なので、おそらく編集で、落とされたものか。さらに蛇足で、恩田清ニ郎は同じ鈴木は鈴木でも清順のほうの「けんかえれじい」高橋英樹の父親役が有名。
◎追記◎繰り返されるギャグのうんちくに、「靴は神代(かみよ)から、下駄は藤原時代、したがって、靴より下駄のほうが新しい」伊藤雄之助以外は、みんな、知っている。

★新・今、そこにある映画★日本映画・外国映画の、新作感想兄弟ブログ。
★映画流れ者★当ブログへの感想・質問・指導・いちゃ問はこちらへ

★人気ブログランキング・日本映画★
↑↓クリックしていただければ、ランクが上がります(笑)。
にほんブログ村 映画ブログ 名作・なつかし映画へ
★にほんブログ村・名作なつかし映画★

by mukashinoeiga | 2012-04-10 08:03 | 旧作日本映画感想文 | Comments(0)

名前
URL
削除用パスワード