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筧正典「新しい背広」八千草薫小林桂樹久保明岸輝子夏川静江中北千枝子瀬良明山内賢

ほのぼの快作。阿佐ヶ谷にて。「現代文学栄華館-昭和の流行作家たち」特集。57年、東宝東京。
 57分の中編、当時は、シスター・ピクチャアとして、何本か作られた。同時上映の添え物用として、低予算で作られたのだが、なかかしっかりした作りのシリーズ、好編ばかり。
 未見といそいそ出かけたら、既見でした(笑)。こういう水準的な、ほのぼの快作が、一番、忘れ易い。突出したものはなく、見ている間はきっちり楽しませてくれるのだが、そのつつましやかな相貌は、ほかの刺激的な傑作、犯罪的な駄作、突拍子もない珍作の、影にうずもれてしまう。記憶に残らない。
 まるで、ヒロイン・八千草薫そのままの印象。清楚で、強い主張もなく、つつましやか。

 兄と弟(小林桂樹・久保明)、その下宿先の奥さん(絶品の岸輝子)と子供たち、小林の恋人・八千草と母・夏川静江も、母一人子ひとりの家族、そこに間借りしている中北千枝子・瀬良明夫婦と小林兄弟は、ともに身一つで台湾から帰ってきた引揚者だ。
 これに小林兄弟の叔父夫婦(北沢彪、水の也清美)を含む、5家族の交流。貧しさゆえのあきらめもあるのだが、そしてそれが当時の主題なのだが、いまは、半ば失われてしまった、つつましさと思いやり、地縁血縁による家族と家族の交流、貧しさゆえに肩を寄せ合っていた、当時の人々の姿が、ほのぼのしたホームドラマの主調となる。
 しかし、新しい背広、新しい靴、新しい○○を、つぎつぎ買い求めていくうちに、古き良さが、失われていく。「古い」人情、TPOが、失われていく。世界は全て、フラットに、無機質に、なっていく。
 という感想、いや、感慨さえ、凡庸な紋切り型であるのは、いたしかないか。それくらい、平凡な感慨をもたらす、平凡な映画なのだが、その平凡さが、見ている間はたまらなく面白く、たまらなくいとおしい。
 もはや、ぼくたちの手の届かない、望んでも手に入らない、いや、望んでもいないだろう、ひととひとの、家族と家族の親和性。
 それが、「凡庸」で低予算の、目立たないが面白い、つつましいプログラム・ピクチャアに凝縮されている。<好漢>以外の言葉が思い浮かばない小林桂樹も、岸輝子・中北千枝子も、素晴らしい。八千草薫のつつましさも、すごすぎる。もはや、若い娘の規範を超えていますな(笑)。
 なお、本作でも驚嘆に値する詳しいキャストを載せるgoo 映画も、載せていないのが、弟・久保明の回想シーンで、彼の中学受験時代を演じるのが、久保の実弟・久保賢(のちに日活青春スタア・山内賢)。とっても可愛い少年を愛らしく演じていて、演技力も、いい。
●追記●小林の最寄り駅は池ノ上、勤務先は渋谷、ということで、沿線の八千草も含めて、京王線つながり。ちいさな木造駅舎も好ましいが、池ノ上にも、八千草の最寄り駅(どこだっけ)にも、ホーローの看板「最近、電車のスピードが速くなりましたので、ご注意ください」。戦後ののろのろ運転を脱した注意書き。こういうの、いいなあ。

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by mukashinoeiga | 2011-12-10 00:12 | 旧作日本映画感想文 | Comments(0)

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