モリシゲの主演新作を「見る」方法

 宮本輝「流転の海・第五部 花の回廊」(新潮文庫)を、読む。
 相変わらず快調な、宮本節で。俗なる快感。通俗娯楽小説の快感が満載。
 松坂熊吾なる、会う人会う人に、必ず「松坂の大将」「大将」と、呼ばれてしまう、いわゆる「人たらし」の快人物を、追っていく大河ロマン。上海から、戦前戦後の大阪を舞台として、その活躍と没落、その大勢の人たちとの交流と、家族を描く。しかも、「たった」五部作なのに、四半世紀たっても、まだ終わらない。
 ぼくも、20年にわたって、読み継いでいるので、膨大な登場人物がいるのだが、細かい登場人物の記憶は、おぼろげ。
 たとえば、今作で、熊吾の小学生の一人息子・伸仁が、初デートで振られる相手の女の子(父親の知人の娘、呉芳梅)が、たしかに覚えはあるのだが、どういう子か、まったく思い出せない(笑)。
 なお、この子の名前でわかるように、この小説には、日本人だけではなく、中国人、朝鮮人が、多く出てくる。戦前戦後の大阪を描けば、当然そうなる。日本人、中国人、朝鮮人が、交じり合い、一大ページェントを繰り広げる。豪奢にしてリアル。松坂熊吾なる、一種の快人を追うことによって、同時に、日本の戦前戦後が、追体験できる仕組み。
 知人の女の子といえば、やはり熊吾の友人の女の子に、熊吾が、おもちゃでも買ってやれ、というシーンがある。

 千代麿の問いには答えず、熊吾は何枚かの百円札を出し、これで美恵におもちゃでも買ってやってくれと言った。
「熊吾おじちゃんからやとちゃんと教えとくんじゃぞ。いまから貸しを作っといたら、将来、伸仁が困っちょるときに、助けてくれよるじゃろ。そのために恩を着せちょくぞ」


 いやー、なんと言う、せこい、深謀遠慮(笑)。実効はあるのか。こまい子供相手に。かそけき子供の記憶に頼ろうという(笑)安物のおもちゃでの、細い、あやふやな買収行為。
 息子・伸仁は、未熟児で生まれ、医者から、はたちまで生きられるかどうか、といわれた、子。自分が死んだあと(熊吾が中年になったのちの子だ)、息子が困ることがあったら、いや、当然、あるだろうという、深謀遠慮。いや、こういうの、いやな人もいるか、ベタだし。大衆小説のずぶずぶさ。
 仕事では、大胆な手を次々打ち、でも、人がいいというか、才はあるが、スキがありすぎて、大事な虎の子を横領されること二度も、人の世話が好きで、世間話が好きで、思わず、誰にも、「大将」と呼ばれてしまうやつ。

 1990年代に、映画化された。斎藤武市「流転の海」 主演がモリシゲ。
 いや、これ、ベスト・キャスト。第五部の今に至るも、主人公の台詞は、脳内変換でモリシゲ口調で読んでしまう。しかし、当時の映画化は、監督も不思議(東宝映画なのに、モリシゲとはあまり接点がない日活監督、しかも文芸映画はあんまり印象がない、斎藤監督)、モリシゲも70前後か、精悍な壮年、松坂熊吾を演じるには、あまりに、老けすぎていた。精悍のかけらもなし。残念な、凡作以下で。
 しかし、映画化される前の愛読者からすれば、松坂熊吾は、モリシゲのほかになし。まさにベスト。ただし、残念ながら、当時のモリシゲ、年をとりすぎていた。願わくば、豊田四郎監督(B班・川島雄三)か成瀬巳喜男(B班・川島雄三)で、脚本は、もちろん藤本義一。そうすれば千葉泰樹「大番」みたいな人気シリーズになったものを。宮本輝、生まれるのが、遅かった(笑)。
●追記●人間ネットワーク作りの天才である、松坂熊吾が、何十年かのち、自分が死んだあとも、<息子のための人間ネットワーク>を残そうという試み、そう考えると、たかが、おもちゃでの、子供への買収行為が、壮大な人間ドラマと化してくるのだ(笑)。


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by mukashinoeiga | 2011-12-01 00:25 | うわごと | Trackback | Comments(0)

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