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市川崑「果てしなき情熱」

 DVDにて。49年、新東宝=新世紀、配給新東宝。
 フィルムセンターで見たものの再見作。新作DVDとして、最近リリースされた。
 服部良一の戦後ヒット・メロディーを大フィーチャー。笠置シズ子、服部富子が歌&演技、山口淑子、淡谷のり子が歌手として出演。
 「湖畔の宿」「夜のプラットフォーム」「セコハン娘」などの、戦後服部メロディーを<作曲した男>に、堀雄二。しかし、堀雄二が、服部良一の役かというと、そうでもない。
 この男、かなり破滅的人物。オレが作曲した曲は、オレのものだと、レコード会社に曲を売っておきながら、いざその曲がヒットすると、キャバレー・シンガーに、その曲は俺だけの曲だ、歌うなー!と、暴れまわる、かなりな御仁で。妄想と粗暴の人。
 しかし、その妄想の実態が、ヨクワカラナイ。脚本・和田夏十の、低レヴェルな<芸術家幻想>ゆえか。
 市川崑は、こういう<芸術家幻想>とは徹底的に無縁な<モダンな職人さん>だから、堀雄二の<暴飲・横暴・苦悩・暴発な芸術家ぶり>が、表層的ハレンチにとどまり、こちらの身にしみてこないのも、致し方ない。
 もっとも、現代の法律論からいえば、キャバレー側は、演奏楽曲の著作権料を払っていないはず、つまり作曲家の「歌うなー!」の心から叫びは、今日的な著作権法的な意味では、正しいことに転倒してしまっているが、まあ、閑話休題な話だろう。
 キャバレー側も、堀雄二に適時、酒類を提供しているようだから、そこはそれでチャラになっているのだろうか。
 堀の妄想の一端は、映画では、信州の湖畔で出会った、麗人(にしては、オバン臭い顔の折原啓子)への、一方的片思いにある、ということになっていて、堀の、逢う事さえままならない女性(何しろ名前も、住所も知らない)への想いが、次々曲を作る動機になっているわけ。その、彼女への妄執が、曲になると、「湖畔の宿」「夜のプラットフォーム」と、これまた次々とヒットしてしまい、<自分だけの想い>が<大衆の愛唱歌>に変成して汚されてしまう!、その怒りが、彼を無茶な行動に駆り立てているのだ!
 和田夏十/市川崑の、<流行歌>存在の<読み替え>が、そもそも無茶なのだ。<流行歌>というのは、もう、ずぶずぶの<俗情との結託>なのであって、そこに作家個人の<私情>は、関係ないのだ。
 おまけに、この夏崑コンビは、おそらく意図的に、作曲家が、作詞(私情の吐露)も担当しているという、誤解を貫き通す。
 もうどうしようもない超根暗野郎として描写されている堀雄二=服部良一のドラマに、たぶん苦笑しつつ、音楽監督として付き合う、服部良一の度量!
 しかし、こんな映画でも、すばらしいのは、<モダンな職人さん>市川崑の、モダンな映像。キャメラ移動、ミニチュア適時使用、光と影の演出の素晴らしさ。ドラマ部分はダメだが、映像のしゃれた展開には、ニヤニヤするばかり。快だなあ。撮影は、小原譲治、やはり。
 もともと歌手の、笠置シズ子、服部富子(服部良一の実妹にして「鴛鴦歌合戦」お富ちゃん)の演技も楽しい。特にお富ちゃんの、アダルトかつダークな役柄には、目を見張る。
 あの「鴛鴦歌合戦」のお富ちゃんも、幾星霜、いろいろ苦労したんだねえ。
 月丘千秋が、姉・月丘夢路にはない<地味娘キャラ>をこれでもか、と。根暗な地味娘を、ウザいまでにねちねちと(笑)堀雄二にまとわりつく。この、ずぶずぶのメロドラマ部分が、<モダンな職人さん>にはどうにも、しまらない。でも、ずぶずぶどろどろのメロこそ、一般大衆は望んでいるんだから、市川クン、娯楽映画をこれからもやっていくんだから、男と女のメロドラマから逃げたらあかんよ、えー、市川クンよお。とでも、プロデューサーあたりから、ねじ込まれたんだろーナー、とお察しする。お察しするが、市川クンには、やはりメロは手に余るようで。
 その月丘千秋に、さらにまとわりつくのが、オーヴァーアクトの江見渉。この人、いつ見ても、いいよね。この生きたアニメキャラみたいな江見渉演技こそ、市川崑の好むところか。
●追記●よく、考えてみると、市川崑の後年作「犬神家の一族」など<横溝=金田一>シリーズでも、かなり不思議な犯人の<犯行動機>も、右から左へ流して、さくさく進めて行った。<ゲージツ家の苦悩>も<犯人の怨念>も、さくさくと流していく。それが<モダンな職人さん>市川崑の崑たるゆえんか。思えば、アニメ職人から出発して、<人間的苦悩>からは、徹底して距離を置いた、真なる<モダンな職人さん>こそ市川崑か。


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by mukashinoeiga | 2011-08-18 00:15 | 旧作日本映画感想文 | Comments(0)

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