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荒井美三雄「処女の刺青」花柳幻舟

 渋谷にて。「妄執、異形の人々 5」特集。76年、東映。
 東映任侠/ヤクザ映画自体の、スピンオフ企画とも言うべき、ドキュメンタリー。
荒井美三雄「処女の刺青」花柳幻舟_e0178641_544469.png 体に刺青を入れる人たち、彫り師たち、のドキュメントだが、冒頭、東映仁侠映画の健さん、藤純子などの、自社フッテージから、入るのが、うれしい。
 全編にわたって、ざくざく、しゃっしゃっ、すぷすぷ、いやいやなんとも文字化出来ない微妙な、皮膚に刺青用の特殊針が突き刺さる音が続く。背中に、股間に、突き刺さる針。滲む血。塗られて行く絵。
 ただしタイトルには偽りあり。処女に、刺青入れるシーンがあるのかと、思うじゃないですか。
 この業界では「いまだ刺青が入っていない皮膚(の人)」を「処女肌」というそうで、別に「男を知らない女性」の意味ではないというのだ! こりゃ、詐欺じゃありませんか!(笑) 東映も民主党だなあ。
 やっと見つけた「処女肌」の女性の体に絵を描く彫り師。ところが実態は、彫り師自身の妻らしく、いささかヤラセっぽい。登場する「作品」さんたちは、水商売、テキ屋、いわゆる香具師ですな、など。
 なんと、やくざ屋さんの「作品」は登場しない。自粛なのか、他粛なのか、まあ、ここに本物を出すのは、東映といえども、まずいということなのか。
 ナレーター兼インタヴュアーに花柳幻舟。この人、踊りの人であっても、語りはシロウト丸出しの、訓練されていないしゃべり方が、ウザすぎ。インタヴューはともかく、ナレーションは、聞いている方が苦痛で。
 映画自体も、関係各方面に遠慮したような、ぎこちないつくり。何よりも、作り手に、刺青に淫した印象がまったくなく、かといって、突き放した冷徹さもなく、中途半端。

 シネマヴェーラの映写は、ここでもピント甘し。基本的に合ってはいるのだが、おそらくプリント劣化に伴う、一部ペナペナ化(あるいは、フィルムに塗られた潤滑油の劣化か)をまったく無視しているので、結果かなりの時間、画面がボケるハメに。
 新作ニュープリントなら、最初にピントを合わせて、あとはほったらかしでも、行けるのだが、旧作の劣化プリントは、上映中、映写技師が見守っていて、そのつど微調整しなければならない。そのレヴェルのプリントといえる。あるいは古い油をふき取り、新たに塗るとか。
 まあ、言うは安く、人件費削減の折、難しいことなんですが。だだ、渋谷シネマヴェーラは、毎日毎日新たな番組を上映しているに等しいシステム。珍映画を求めて(それはそれでファンにはうれしい)劣化フィルムをつかまされる割合も多いだろう。だからといって、それなりの料金を取って上映するのだから、上映の多くの部分をぼけた状態なのは、よろしくない。シネマヴェーラには、旧作プリントを上映する資格も、覚悟も、ない。
 ぼくが見る限り、比較的、そういうことの少ないだろうほかの名画座に、ご相談されては、いかが。
 デジタル素材の媒体は劣化しないという。それはそれで本当かと思うが、フィルムは、必ず劣化する。上映を一回すれば、それだけで、プリントはそれなりに劣化する。まるで、生きものであるかのように、フィルムは劣化する。
 情緒的に言えば、フィルムは「情報」ではなく「情念」を「写して」いるがゆえに、まるで生きものであるかのように、経年劣化する。デジタル素材は「情念」ではなく、「情報信号」を「映して」いるゆえに、「情報信号の中身」自体は、暫時価値を軽減するけれど、「情報信号」自体は、経年劣化しない。ま、自分でも、なにを言ってるのか、わからんけれども(笑)。

by mukashinoeiga | 2011-02-08 23:24 | 旧作日本映画感想文 | Comments(0)

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