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佐藤武「虎彦龍彦」

 阿佐ヶ谷にて。「元祖マルチ・タレント 徳川夢声のほろよひ映画人生」特集。43年、東宝。
 この佐藤武という監督はデータによれば、
●清水宏(『七つの海 後篇 貞操篇』32年『泣き濡れた春の女よ』33年 『港の日本娘』33年『大学の若旦那』33年 )
●島津保次郎(『隣りの八重ちゃん』34年 『私の兄さん』34年 『春琴抄 お琴と佐助』35年 『彼女は嫌いとひいました』)
などの監督補助を努めた後、東宝で、 『チョコレートと兵隊』38年など約10本、他社でも約10本ほど撮った、B級娯楽映画作家のようだ。
 ぼくが見たのは、『ママの新婚旅行』(このブログに感想あり)、この同じ特集での『スラバヤ殿下』、未見のなかで気になるのは、怪タイトルで有名な新東宝 『九十九人目の花嫁』47年か。
 本作の原作・坪田譲治「善太と三平」者は、清水宏「風の中の子供たち」と同じ原作という。いわば師匠筋に当たる清水宏映画のリメイクらしい。もっとも、清水版は小学生が主人公で、本作は中学生。その後の物語のようだ。
 母はすでになく、父は帝国軍人として出征して、残された果樹園は、中学生のふたり・虎彦と龍彦、小学生の妹で、やりくりしなければならない。使用人の金さん・銀さんのコンビは、果物や鶏などを売っ払って、逃亡した。
 窮地に陥り、親戚一同(徳川夢声、英百合子、伊藤智子)らが親族会議など開いて、助けを出す。
 英百合子、伊藤智子といえば、ミッキー成瀬「妻よ薔薇のやうに」の、本妻・愛人コンビ?の、老け役出演か。
 その後、金さん銀さんも改心?して、果樹園に戻り、小学生の妹の学校の教師・轟夕起子の、過剰とも思える援助を受け、物語は進んでいく。
 映画は、まったく、面白くない。無理な物語設定、子供たちをだまして家財を盗んだ金さん銀さんが平然と戻ってくる。もちろんそれを許さない徳川夢声老が怒り付け、その怒りのあまり、夢声老は頓死してしまうのだが、その死のあとも、平然と、果樹園に、居座る。朝鮮人という設定なのか。菅直人の先祖か。
 無理筋といえば、女教師・轟夕起子が、一生徒一家の窮状を見かね、果樹園に住み込み、子供たちと果物の世話を一身に引き受ける、その献身ぶりが、明らかにおかしい。ほかの生徒や、教師業を犠牲にしなければできないような、献身ぶり。
 『ママの新婚旅行』『スラバヤ殿下』と、あわせて感じるのは、あやふやな物語設定、あいまいな物語、力のない語り口、熱のない演出。
 観客であるぼくを、ちっとも、イカせてくれない、不感症映画監督か。
 なお中学生の弟・龍彦を、杉裕之少年。戦前の喜劇役者・杉狂児の令息という。父親譲りの線の細い、少年。なかなか演技もいい。しかし、映画は、はじけない。撮影・中井朝一、照明・石井長四郎という名コンビなのだが。

by mukashinoeiga | 2011-02-06 00:57 | 旧作日本映画感想文 | Comments(0)

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