人気ブログランキング | 話題のタグを見る

メルヴィル「マンハッタンの二人の男」

 池袋にて。「魅惑のシネマクラシックス VOL.11」特集。58年、フランス。配給ケイブルホーグ。
 監督・脚本・撮影・主演ジャン・ピエール・メルヴィル。フレンチ・フィルムノワールの雄メルヴィルも、なにかカエルみたいな、おとぼけ顔で、役者としてもなかなか好感度。
 AFP、昔風に言えばフランス国営通信か?、そのニューヨーク支社の記者メルヴィルが、国連フランス代表大使の失踪事件を追い、フリーランスのやさぐれ事情通キャメラマンを連れて、深夜のニューヨークを徘徊する。
 まさに、ハードボイルドな結構は整った感じで。絶えずジャズが流れ、ノーライト撮影で、ニューヨークといえど当時は夜も真っ暗な街路、少人数編成のスタッフによる、ゲリラ撮影の妙味。メルヴィルが呼び止めるタクシーの運転手はきょとんとした顔で、明らかに現地タクシー・ドライヴァーをそのまま使ったもの。まさにヌーヴェルヴァーグの原点というのも納得。
 笑ってしまうのは。メルヴィルが、やさぐれキャメラマンのアパートを訪ねると、彼は寝ていて、ジャズ・レコードが大音量で流れている。メルヴィルはレコード・プレイヤーの音量を絞るのだが、その直後から<BGMとしてのジャズ>が大音量で流れていく。モノクローム・スタンダードの映像の、ほとんどダークな夜の都会・ジャズ・深夜の酒場・なにか思惑ありげな女たち、フィルムノワールとヌーヴェルヴァーグ原型の、幸福な結合。
 失踪した大使の愛人と目される、ブロードウェイ女優、録音中のジャズ歌手、などを訪ね歩くのだが、それぞれ実質一分弱のインタヴューだけ、ほとんどミステリ部分自体がマクガフィンそのもので。要するに、ミステリなんかどうでもよいので、深夜の大都会を徘徊することが出来れば、それでいいのだ。警察と違い、通信記者なら、朝刊のデッドラインというのも設定できる。もちろん朝刊の締め切りというのは、実際には払暁には設定されていないのだが、<ぎりぎりに輪転機を止めるシチュ>もありうるわけで、夜明けのデッドラインというのは、少なくとも映画のフィクションとしては、きわめて有効的なわけだ。
 この通信社記者と、それをさらに追う大使の娘、ふつうなら追いつ追われつのなかで、ラヴモードになるのが映画の常だが、あいにくカエル顔のメルヴィル、しかもハードボイルドだしね。その辺のさっぱり感も、フランス人らしくないが?、夜のクールなムードに合っている。

by mukashinoeiga | 2010-05-05 22:23 | 旧作外国映画感想文 | Comments(0)

名前
URL
削除用パスワード