篠田正浩「沈黙」

 京橋にて。「映画監督 篠田正浩」特集。71年、表現社=マコ・インターナショナル。
e0178641_022442.jpg 来日したポルトガル人神父たちが全員英語をしゃべるとか、そのポルトガル人の一人が丹波哲郎だとか、突っ込みどころは満載ながら、まあ、なかなかの力作。
 先の大島特集で見た「天草四郎時貞」と同じく、長崎のキリシタン弾圧を描く。かつての民衆抑圧・宗教弾圧・外国人排斥の典型的事件?に、共通したナニカを見出す松竹ヌーヴェルバーグ上がりたち。脳内お花畑連中の考えることは、60・70年代から、今の民主党政権に至るまで、ちっとも変わらないなあ。
 頭の中にお花畑のある連中には、長崎のキリシタン弾圧は、ナニカとてつもない魅力があるのだろう。
 つまり、思うに、このキリシタン弾圧には、あまりにインパクト大にして、魅惑のアイテムがあるからだろう。
 もちろん<踏み絵>だ。アイコンを踏めば(クリック)、それは転びバテレンとして無罪放免、踏まねばご禁制のキリシタン認定、即処刑、あまりにわかりやすく、ヴィジュアル的にも演劇的にも一発オーケーの魅力的弾圧システム。この板っ切れ一枚への一歩があるかないかで、<現世天国・心は地獄>か<現世地獄・心は晴れ晴れ?>か、あまりに複雑な心理描写が、即決まってしまうんだから。
 踏み絵を前にして、転ぶか、キリシタンとして己れの節を守るのか、解放か死か、たかが一歩足を踏み出すかとどまるか、その<小さな一歩>がことごとく<大きな一歩>になってしまう、必要最小限、簡にして単な必殺アイテム。
 転向、つまりおのれの信念を裏切って社会的生命的平穏を得るか、おのれの節を守って自己を犠牲にするか、なんてなかなか哲学的な問題は、映画では凡才には簡単には描写できないのよ、ふつう。神への忠誠か、現世利益か、なんてこともなかなか描写としては、キマるようなもんじゃないのよ。
 それが、ちっぽけな、凹凸のある銅版一枚で、解決できて、なおかつ、わかりやすく、強烈。こんな最強アイテム、他の弾圧・抑圧・虐殺事件の数々で、そうめったにはないでしょう。たいていの弾圧システムってのは、大掛かりな装置・制度を必要とするゆえに、なにがしかの説明的描写が必要なのに。それが、踏み絵は、ヴィジュアル一発即理解。
 ああ、凡庸な映画作家なら、舌なめずりして、飛びつくに決まってるよねー。いや、別に篠田や大島や渋谷がそうだ、というわけではないんですけどね。
 本作でも、長崎奉行配下・戸浦六宏が「なあに、たいしたことないんだよ。軽くちょちょっと踏めば、すぐ家に帰れるんだよ」みたいなことを、笑顔で言うのね。あ、もちろん、ちょちょっと、なんて言わないけれど、真面目な映画だから。まるで宴会で、酒が飲めない人に、「まあ、最初の乾杯だけだから。杯にちょちょっと、気持ち、口をつければいいことだから」と同じで、「気持ち、踏むだけでいいから」と。この「気持ち。○○するだけでいいことだから」というのも不思議かつ便利な日本語で。厳密かつ厳正な西洋宗教とは、まったく相容れないことだろうし。
 ちょっと、笑ったのは。
 隠れキリシタンたちが、密入国してきたポルトガル人布教者たちに、長崎奉行所の宗教弾圧を報告する際、盛んに「異教徒たちは」こういう弾圧をする「異教徒たちは」こういう悪魔の振る舞いをする、と<同じ日本人>を冷静かつ客観的に説明する。彼らは同じ宗教であるがゆえに、同国人を切り離し、外国人たちの側に就いている。
 ああ、これって、今と同じ構図じゃないの。俺たちは<日本人>じゃない、<世界市民>なんだ、と。<世界と連帯して、邪悪な日本人を倒す>と。<邪悪な日本人>としては、まあ、弾圧するほかないわな、封建社会では。
 つっこみどころとしては、マコ岩松は、踏み絵を踏めといわれて踏み、踏み絵につばを吐けといわれてつばを吐き、転向して、放免される。しかし、キリシタンとしてはこれがトラウマになり、仲間を売って得た報奨金で、女郎屋に居続け。しかし苦悩の果てに、女郎・三田佳子に「俺の顔につばを吐いて!」と頼み込み、三田がぺぺっと顔面につばっ、てSM世界?に乱入。いや、絶対「俺の顔も踏んで」とも頼んだに違いないよ。東映エログロ時代劇で見たかった(笑)。リメイクするスコセッシには、ぜひ、描いてもらいたい(笑)。

◎追記◎キリスト教布教者を弾圧したせいで、そのあと、そろってついてくる、ビートたけしいうところのおしゃれ小鉢、西洋キリスト教国帝国主義者たちの侵略を日本が防いだ、という点では、このキリシタン弾圧は、もっと評価していい快挙という視点も、大事だろう。

◎追加◎Silence (Chinmoku) 1971 - Apostatize Sequance

Тишина (Молчание)/ Chinmoku / Silence

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by mukashinoeiga | 2010-02-28 08:07 | 篠田心中岩の下志麻 | Trackback | Comments(0)

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