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斎藤光正「斜陽のおもかげ」太宰治吉永小百合新珠三千代太田治子

 神保町にて。「日本文芸散歩」特集。67年、日活。
斎藤光正「斜陽のおもかげ」太宰治吉永小百合新珠三千代太田治子_e0178641_0361285.jpg 本年が生誕百年である太宰治。その「愛人」の遺児・太田治子原作で、原作者がモデルになった役を吉永小百合、母を新珠三千代。
 いやー、きわめてビミョーな映画ですな。この母娘が<健全>であればあるほど、居心地が悪いはめに。
 太宰の愛人は母になり、太宰の死後、一人で働いて、娘を育てている。小説「斜陽」のモデルでありつつ、現実には母子家庭の支え手。この母はアパートの本棚に、太宰全集や、太宰研究のあらゆる書物を集めて、日々それらを読み返している。
 そうして、母と娘は、ふたり顔を見合わせ、微笑み合いながら、頭に記憶している、太宰の文章を朗々と朗読する。ふたり声を合わせ<太宰を合唱>する。
いや、こんなシーン太宰が見たら、恥ずかしくって死んじゃいたくなるんじゃないか(笑)。
あるいは、週刊誌記者(いかにもうさんくさい小池朝雄)が企画する、<太宰の本妻の娘の女子大生>と<太宰の愛人の娘の女子高生>の<ご対面企画>。本妻の娘の威圧的な態度に、吉永は逃げるように帰っていく。本妻の娘、悪役扱いじゃん。いや、でも、これはジャーナリストとしては、ごく真っ当な覗き見企画だから、当然あるでしょう。いやあ、恥ずかしい。誰が。太宰が。
斎藤光正「斜陽のおもかげ」太宰治吉永小百合新珠三千代太田治子_e0178641_037213.jpg 「斜陽のおもかげ」監督はじめ関係者は、太宰に何らかの思い入れがあって、作ったのか。
思い入れがあったら、これはやらないよな、という地雷を踏みまくり。しかし、地雷を踏まないことは、誰がやっても、無理だろうけどね。太宰みたいなひねくれ者、常にズラしていくひとを相手にするのは、はじめから、負け戦なんだろう。
 太宰の友人・壇一雄が出てくる。太宰の思い出を、庭に面した座敷で、吉永に語る。突然、座敷の奥にむかって、「おかん!」と叫ぶ。すると、「おかん」こと夫人(壇ふみをかなりバタ臭くした顔)が庭から料理を持ってやってくる。方向が違うのが、おかしい。壇夫人、料理を持って庭に待機していたのね。
 後半、吉永は太宰の故郷、青森に行く。斜陽館にも、泊まる。太宰の兄に、三津田健。ベスト・キャスティングだ。ただその老夫人が青森現地の素人なのか役者なのか。太宰の中学時代の同級生(小高い丘に太宰碑を建てる)、本人か、と思われたが、なんか地元劇団の役者かも。素人、プロ・アマ?混在のキャスト、ここらへんの虚実混交が、この映画最大の面白さ。

 さらに、これは映画上のフィクションなのか、原作にあるエピソードなのか、太宰ファンの青年(岸田森)と、付き合うようになる吉永。デートはもちろん玉川上水だ(笑)。自分の娘と、自分の熱狂的なファンが、玉川上水でデート。死にたくなりませんか、太宰(笑)。いや、恥ずかしい・・・・。
 太宰大ファンの青年・岸田森、どうしても太宰ファンに見えない(笑)。その両親に高杉早苗(お懐かしい)・芦田伸介。酒を飲みつつ息子に説教するシーンで、ちょうどスクリーン目の前の芦田の、耳の下に汗がたらり・・・・。こういうのも、珍しい。普通ならNGなんだろうけど、単なるいい加減なのか、メタ・フィクション(!)を目指しているのか。

 吉永小百合、とりわけ美少女。健康そのものの美少女。お茶目で、凛々しく、健康的。いまげんざいの吉永さんも美しい。しかし今の吉永さんは、美しさと聡明さだけが残って、<お茶目>でも、<凛々しく>もなく、<健康的>なイメージもない。美少女時代にあった美点が全て、今の吉永さんにはない。繰り返すが、美しさと聡明さだけが、残っている。主演女優としてのオーラが消えうせ、美しさと聡明さだけが残っている。だから、ここ数十年の吉永主演映画は、ことごとく、死屍累々。美しいだけじゃ、駄目なのよ。

 ところで、神保町シアター製作のスタッフ&キャスト・リスト。吉永の幼女時代の子役(くりくりっとしたかわいい目の少女)の表記、

  伊藤久美子(少女時代・六才位)

とあるが、リストのすぐ下、同じ本特集で上映される「火宅の人」86年・東映の項をたまたま見ていたら(リストでは「斜陽のおもかげ」の二個下)、

  伊藤久美子(女郎屋の女)

とある。同一人物だとしたら、20年の歳月を経て、小百合の子供時代役から、女郎役への変遷。いや、役者が役をやるのに、子役も女郎役も変わりはないのだが。とはいえ「火宅の人」は、壇一雄原作の自伝(的)映画で、緒方拳が壇一雄役。しかも、岡田裕介が太宰治役、記憶では屋台シーンに出ていたはず。壇/太宰関連映画に二度も出ている女優。何か、いわれが? といっても、たった二作だけなんですけどね。
 気になり日本映画データベースで見てみたら、

伊藤久美子
出演
1967.09.23 斜陽のおもかげ  日活  ... 町子の少女時代(六才位)
1984.08.10 双子座の女  にっかつ  ... ゆかり
1985.05.08 愛人 悦楽の午後  V企画  ... 桃代
1985.07.20 絶倫海女しまり貝  にっかつ
1986.11.15 極道の妻たち  東映京都
1988.09.17 新未亡人下宿 地上げ屋エレジー  新映企画
2003.06.26 稲川淳二の戦慄のホラー チェーンメール (V)  角川書店

と、あった。別に壇/太宰関連の人ではなかったのね。このフィルモグラフィー、「火宅の人」はないけど、しかし時代の空気感じるなあ。

by mukashinoeiga | 2009-11-14 01:27 | 珍品・怪作の谷 | Comments(0)

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