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千葉泰樹「母校の花形」

 京橋にて。「発掘された映画たち2009」の「バン・コレクション1」より。
 37年、日活多摩川・44分・不完全
 「下町ダウンタウン」「二人の息子」「大番」シリーズの千葉泰樹、戦前作品。ただし、後半部分(大団円のみ?)は失われている。が、お定まりの青春コメディなので、後半の展開は容易に想像できる。そして、前半だけでもとても楽しい。
 当時のコメディアン杉狂児(今では絶対TVにかけられない芸名)が大学ラグビー部の万年補欠兼マネージャー。お情けで練習に参加させてはもらえるが、絶対に試合に出られない。むしろ部員の合宿所のまかない係として、みんなの人気者。ところがキャプテンの妹が借金のかたに芸者に売られると聞き、部の食費を流用し、助ける。妹は別に相手がいるので、杉狂、まったく色恋抜きで横領してしまう。とたんに、部の食事が貧弱になり、部員はブーブー、肉を食わせろとうるさい。そこで肉屋で御用聞きのアルバイト。「アルバイト料は要りません。その分の肉を毎日、現物支給してください」肉屋の主人「なんだかよくわからんが、そうしよう」泣かせるバイトだねえ。みんなが練習している間に肉を調達、夕飯に間に合わせる、自転車で各家庭を回る御用聞きの、まさしく自転車操業だ。
 いよいよ部の大学対抗試合。その間も彼は試合の中継を街頭ラジオで聞きつつ、御用聞き。キャプテンの活躍もあり、万年負けチームが、初めて勝つ。御用聞きも忘れて、杉狂、大熱狂。店に帰ると、「どこで油を売っていた。遅いじゃないか。ところで大口の注文があった、何でも大学の先生のうちで祝勝会があるそうだ。早速肉を届けてこい」。ここでええっ、という顔の杉狂。実は肉調達のアルバイトはみんなに内緒だったのだ。今日の試合でも、杉狂は何で来ないんだ、とキャプテンも不審がっていたばかり。先生のうちへ行けば、ばれてしまう、という表情の杉狂、ここで映画は唐突に途切れる。
 トーキー初期にあって、杉狂のコメディ演技はいささかサイレントっぽいのはやむをえないか。
 サトウ・ハチロー原作、小国英雄ほか脚本、古賀政男音楽の、快調な一篇の、その半分だけでも見れたのは幸せであった。フィルムセンターの発掘映画特集は、発掘したはいいが、詰まらんもの多数、で、だんだん客数が減っているようだけど、こんな掘り出し物があるから、侮れない。若々しい千葉のセンスはうれしい。
 なお、戦後大映の名脇役の一人としておなじみの潮万太郎が、若い気のいい郵便配達夫として登場。顔も何もかもまったく変わらない姿で、うれしくなる。コメディリリーフとして、大学応援団の団長。太った体に例の羽織袴のコスチューム。ラグビー部が勝てないばかりに?卒業を延ばしている万年落第生。今年は勝って俺を卒業させてくれよ、という彼だが、応援団長なのに、なぜかどもり。こういう細かさも含めて、千葉センスよろしい。
 同時上映は、短編歌謡ショー映画二編とドラマ一篇「罪はいづこに」。
 「スクリーン・アトラクション 愛染二重奏 オシドリヒット歌集」(40年頃・朝日映画・19分)の、センスよいアニメと、歌手出演のMTV風?実写映像をスクリーンで流し、そのスクリーンの前で当時の人気歌手に歌わせる趣向は楽しい。

by mukashinoeiga | 2009-07-12 21:18 | 千葉泰樹 ヤスキ節の愉しさ | Comments(0)

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